かるがも書房 本の感想

当店にある本の読後感想を気ままに書きます。

太宰治「人間失格」

 高校生の時に読み始めたら気持ち悪くなって、読まずにいた太宰治の「人間失格」を、遅ればせながら読みました。



 どうして読めなくなったのか覚えていなくて、ただただ気持ち悪くなり、太宰治は自分には合わないと思っていたのですが、今読み始めてみたら、やっぱり最初の“はしがき”を読み始めたら気持ち悪くなり、「ここが気持ち悪くなった原因か・・・」とウン十年前に起こった理由が分かったのですが、そこを乗り越え我慢して読んでいたら、思いっきり太宰治の世界にのめり込み、小説が短かったせいもあり一日で読み終えました。


 どうしてこんなにもこの「人間失格」がたくさんの人に読まれているのか分かったような気がします。


 普通なら書けない人間の奥深くにある、ほとんどの人が蓋をして見ないようにしている人間の隠された醜いとも言える本質を、これでもかという程鋭く描かれているのが、読む人の心の奥深くに突き刺さってくるのではないでしょうか。その醜さは弱さのせいかもしれないけど、多分誰にでも心当たりがあるもので、自分だけではないという安堵感にも繋がる部分もあるように思いました。


 太宰治が入水自殺する一か月前に発表されたこの作品。彼は人間社会で生きていくには繊細過ぎたのでしょうか。太宰治自身が自分の精神の中身を全部さらけ出しているようなこの小説は、小説なんだけど読んでいる自分に矢をむけられているような気さえする、すごみのある、心を大きく激しく揺さぶられる作品だと思います。


 私の父は弘前市出身で、叔母が五所川原市に住んでいたので、金木町で桜を見た事もあり、太宰治の故郷津軽はとても身近な地域です。その地域から大勢の人に読まれ愛され続けている作家が誕生し、その方の本を今読めるという幸せを感じました。太宰治の他の小説も読んでみようと思います。