かるがも書房 本の感想

当店にある本の読後感想を気ままに書きます。

エミリー・ブロンテ「嵐が丘」

 映画にもなっているとても有名な小説ですが、世界三大悲劇の一つなのだとか。「嵐が丘」を読んでこの作品に関してネットで調べるまで世界三大悲劇の一つだということを知らなかったのですが、この作品は悲劇なのか?ちょっと疑問にも感じました。


 私が読んだのは日本で最初に翻訳した大和資雄(やまとやすお)訳の角川書店が発行したもので、もう絶版になっている本です。



 読み始めてしばらくは忍耐がいりました。やはり最初に翻訳されたものだからかもしれないのですが、日本語が難解ですんなり読めないんです。ただ、この大和資雄訳に関しては、ネットでは言葉の表現が古いと言っている方もいますが、エミリー・ブロンテが生まれたのは1818年で「嵐が丘」を書き上げ出版されたのが1846年なので、その時代背景を感じ取れるという点で、私は訳された日本語が古いというよりも、書かれた時代を想像できるという点で、時代に合っていて良い感じがしました。


 それにしても、主人公ヒースクリフが残忍過ぎて、読みながらその残忍さに耐えなければいけないのが辛くて、何度も読み始めたことを後悔しながら読んでいました。ただ中盤以降は話の展開が面白かったので、その辛さに耐えながらも物語の展開に引き込まれながら面白く読み進めることができました。


 私はこの作品を悲劇とはどうも捉えられないです。登場人物の人達のほとんどは主人公ヒースクリフのせいで辛い人生を送らなければいけなくなっていて、ヒースクリフに憎悪さえ感じます。でも一番辛かったのはヒースクリフなのかもしれないといった意味では彼は悲劇の主人公かもしれないのですが、悲劇の主人公とは思えない残忍さがあるせいで彼を悲劇の人とは捉えられずに読んでいました。


 ヒースクリフのキャサリンへの一途な思いが全編にあり、またキャサリンのヒースクリフに対する思いもあり、ヒースクリフもキャサリンも自分たちの思いを遂げられなかったという点で悲劇と言えるかもしれないのですが、二人ともとても強い性格で辛辣な言葉を人に向けることがあるせいで、彼らに同情を感じることは彼らが死ぬまで私はできませんでした。ただ、二人がお互いを失ったときの悲嘆があまりにも強かったのでこの物語は悲劇なのでしょうか。


 物語の最後、周りに平和が訪れるのが、私にとっては読後の救いとなりました。それから主人公のヒースクリフが最期に向かっていく場面で、彼は辛さを抱えていただけかもしれないとも思えたんです。


「嵐が丘」、強烈な印象を植え付けるし、心理描写も鋭いので、読み応えがある物語だと思います。エミリー・ブロンテは詩も書いていて、この物語も詩的な文章で風景が書かれているためイギリスの田舎の情景が目に浮かぶような感じで、そこも楽しめます。


 10人以上の方が翻訳していて、翻訳者によって微妙に文のニュアンスが違っているみたいなので、最近翻訳した方の本も読んでみようかと思っています。原書も購入しました。時間をかけて原書もじっくり読んでみたいです。